真白き富士の嶺
逗子の浜辺を解放されたようにはしゃぎ廻わる梓。天翔ける青春の**像のような神秘な美しさが、何か悲しそうな影をひめていた。梓が退院したのは昨日のことである。喜ぶ梓を前に修平をはじめ、姉の梢も暗い面持であった。それは退院真際に院長の言った、「出来るだけ患者をいたわってやって 下さい」という言葉が重かった。風光の良い逗子に居を移したのもこうした家族の思いやりであった。お手伝いの“さと”と毎日過す梓が、ある日表の掃除をしている時、誤って高校生に水を浴びせてしまった。恐る恐る垣根越しに詫びる梓は、振りむいた高校生に胸をドキリとさせた。彼は逗子高校のヨット部員富田一夫であった。二度目に一夫を見たのは、父修平を迎えに行った帰りだった。顔を赤らめる梓。茶目ッケのある梓は元気を取り戻して、単身、姉の婚約者山上を訪ねて上京した。その間姉の梢は、梓にあてられた多くのラブレ...