口笛を吹く渡り鳥
雁(かりがね)の伊太郎は旅の途中、医師の卜斎、その娘おせつと知り合った。口笛のうまい伊太郎は名代のかん癪持ちである。三人が茶屋で休んでいるとき、雲助たちが旅姿のとみ・みよ母娘をゆすろうとした。伊太郎は彼女らを救おうとしたが、雲助たちに脇差をとられ、無腰で弱りはてた。卜斎は雲助らを叱りつけ、彼を救った。なにせ、卜斎は雲助に薬代の貸しがあったから、強いのである。伊太郎は渡し舟の中で乱暴役人二人を川へ投げこんで、強いところを見せたが、卜斎は「匹夫の勇じゃ」と軽くあしらうのである。この爺、そうとうな頑固ものと見えた。彼らと別れた伊太郎は“つたや”に泊ったが、女の泣き声が聞こえた。おみよ母娘だった。みよは身売りしてきたのだ。この土地の顔役、温泉場の経営者黒磯の五兵衛はみよの身売り代五十両を母のとよから奪った。伊太郎は伜の美代吉と名乗って、五兵衛のもとでタンカを...