のぞく
嶺監督は、在宅制作という環境からとんでもないアッパーカットを繰り出してきた。多くの者が目の前の現状に注力するこのご時世、彼はそこから地続きのこれからに目を向け、この外出自粛期間を、ひとりのカメラマンの黎明期に例えた。この期間、私たちはある不可抗力の如く、自問自答を強いられ、ミニマムな自己探求の旅に出た。嶺豪一はその旅路を”のぞく”。日常を切り取るイメージの鮮烈は、次第にマジックリアリズムの気配を帯びながら…。のぞき、のぞかれ、撮り、撮られ、自作自演の密室劇は、やがて合わせ鏡のような無限の迷宮に変貌する。近い未来、コロナウイルスが終息し、私たちは各々の迷宮から外に繰り出し始めるだろう。その時、ふと、思い出して欲しい。もうすでに、どこか誰かの伝説の”始まりのゴング”は、人知れず鳴り響いていたのだと。